やくそく

「タ〜イムッ!」
新垣はたまらずマウンドにかけよった
「どうしたの、愛。 球はきてるよ」
「コントロールがきかないんだよね。緊張してるのかな」
「あとひとり。もうひとふんばりだよ」
とかけよってきたきたのはファーストの小川だ
「ランナーは気にしなくていいよ。バッターに集中、集中♪」
にこやかにきたのはサードの紺野
「打たせても大丈夫ですよ、高橋さん」
「バックの私たちがしっかり守りますから」
ショートの田中、セカンドの亀井も高橋を元気付けるためにマウンドに集まった
そして、外野の方から
「点取られても私のバットですぐに取り返しますから
 思いっきり投げちゃってくださ〜い♪」
能天気に叫ぶのは久住だった
それを制するように道重が
「あんた今日3タコだったじゃない!」
久住の頭をこついた


「なに、びびってんの!」
高橋は頭をこつかれマウンドの全員が振り向くとそこには
ベンチから飛んできた藤本が仁王立ちしていた
「今日のあんたの球ならむこうのほうがびびるよ!
 それともあいつの顔にびびってんの!」
バッターのアメリカ選手を指差して藤本は怒鳴った
「藤本さんのが怖いです・・・」
高橋はオドオドと答えた
そんなふたりのやり取りにマウンドで笑いがわいた
「亀井笑いすぎ!」
藤本の一言で亀井はしょげた・・・
「なんのためにあんたにマウンド渡したと思ってんの
 自分の球に自信をもちな
 里沙のミット目掛けておもいっきり投げ込めればうたれないから」
そう言うと藤本はベンチに戻っていった
「藤本さん・・・」
高橋は去っていく藤本の背番号をみつめた・・・


「ファイッ!」
と掛け声でナインも戻っていきマウンドにはバッテリーふたりとなった
新垣も守備に戻ろうとしたとき高橋がつぶやいた
「ホントに来たんだね、オリンピック・・・」
「えっ!?」
真っ青な青空を見上げながら高橋は話し続けた
「夢にまでに見たオリンピックに出てるんだよね、私たち・・・
 みんなでちかった4年前の約束がはたせるんだよね
 約束まであとひとり!だね」
そんな高橋の笑顔のひとり言に
「そうだよ、やくそくまであとひとりだよ!」
新垣はマスクをかぶりながら答えた

 
「まったく甘ちゃんなんだから・・・」
ベンチに座った藤本はマウンドを見ていた
そこへ
「お疲れさん」
監督の吉澤が藤本の肩をたたいた・・・



・・・つづく